犬猫の殺処分数は、長い目で見ると大きく減っています。それなら、犬猫をめぐる保護の問題も、同じように小さくなっているのでしょうか。
一方、民間保護団体を対象とした2026年の調査では、回答した団体の約半数が、1年前より保護依頼や持込みが増えたと答えました。
一見すると矛盾しているようですが、二つの数字は同じものを数えていません。行政と民間では、そもそも「見ている犬猫」が違うのかもしれません。
この記事で分かること
- 行政の犬猫引取り・殺処分統計が数えている範囲
- 殺処分数の減少と民間への保護依頼増加が両立し得る理由
- 保護政策を「入口から出口まで」見るために必要な視点
殺処分数は減っているのに、保護依頼は増えている?
環境省の「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」によると、2004年度に全国の自治体が引き取った犬猫は41万8,413頭、殺処分数は39万4,799頭でした。
2024年度には、引取り数は3万9,409頭、殺処分数は6,830頭まで減っています。
この長期的な減少は、犬猫をめぐる取り組みの大きな成果です。
ところが、犬猫生活株式会社の「全国 犬猫保護活動 実態白書2026」では、回答した120団体の48.4%が、1年前と比べて保護依頼や持込みが「増加」または「大幅に増加」したと答えています。
同調査は、2026年6月9日から7月27日にオンラインで行われ、犬猫生活株式会社と犬猫生活福祉財団がメールやSNSで回答を呼びかけたものです。
全国の保護団体を無作為抽出した調査ではないため、48.4%という数字を全国すべての団体にそのまま当てはめることはできません。
ただ、回答した民間団体がどのような状況を経験しているかを知る資料になります。
ここで「行政と民間のどちらが実態に近いのか」と二者択一にする必要はありません。
行政統計は行政が扱った犬猫を、民間調査は回答した保護団体に届いた依頼や保護を見ています。
対象も期間も異なるため、両方の傾向が同時に成り立つ可能性があります。
行政の数字には何が入り、何が入らないのか
行政統計で分かること・分からないこと
環境省の統計は、都道府県、指定都市、中核市などから報告された動物愛護管理行政の業務結果を集計しています。
主な項目は、次のとおりです。
- 飼い主から引き取った犬猫
- 所有者不明として引き取った犬猫
- 飼い主へ返還した数
- 新しい飼い主などへ譲渡した数
- 殺処分数
2024年度の引取り数3万9,409頭の内訳は、犬1万7,399頭、猫2万2,010頭です。
その後、犬猫合わせて6,855頭が返還され、2万5,651頭が譲渡され、6,830頭が殺処分数として計上されています。
注意したいのは、ここでいう殺処分数には、保管中の病気などによる自然死も含まれていることです。
環境省は2019年度分から殺処分数を三つに分類しています (資料)。
そのため、すべてを同じ事情による人為的な致死処分と考えることはできません。
ここで重要なのは、行政の「引取り数」は、保護を必要とする犬猫の総数ではないという点です。
自治体への相談件数や、引取りに至らなかった案件、最初から民間団体へ相談された犬猫は、この数字からは分かりません。
行政は「引き取る」だけでなく、相談や助言も行う
動物愛護管理法では、飼い主に終生飼養を求めるとともに、自治体も状況次第では引取りを拒否できる仕組みになっています (第35条)。
例えば、繰り返し引取りを求める場合や、飼養が困難とは認められない場合、譲渡先を探す取組をしていない場合などです。
法律は自治体による引取りを定めていますが、終生飼養の趣旨から、一定の場合には引取りを拒否できる仕組みも設けています。
自治体は、飼養継続や繁殖防止について助言する役割も担います。
このため、行政の引取数が減ったことを、そのまま「行政が仕事をしなくなった」と解釈することはできません。
終生飼養は、病気、入院、生活困窮などを抱えた飼い主を責めるための言葉ではありません。
むしろ、事情が深刻になる前に相談でき、飼養継続や新しい飼い主探しにつなげられる仕組みが重要です。
ただし、こうした相談が全国でどの程度行われ、その後どのような支援につながったのかは、現在の引取り統計だけでは分かりません。
民間保護団体にはどこから犬猫が来ているのか
民間団体には、行政から譲渡のために引き出される犬猫だけでなく、さまざまな経路から相談が届きます。
「全国 犬猫保護活動 実態白書2026」では、直近1年間に新たに保護した犬猫について、行政機関からの引き出しと、一般市民や野良からの直接引取りのどちらが多いかを調査しています。
その結果、新規保護の中心が一般市民や野良からの直接引取りだったと回答した団体は71.7%でした。
犬猫を分けると、犬を保護する団体では50.9%、猫を保護する団体では74.3%でした。
また、一般市民から「保健所で引取りを断られたので相談した」と伝えられたケースについて、40.0%が「頻繁にある」、31.7%が「まれにある」と回答しています。
これは、あくまで保護団体側から見た相談の実態です。
行政側の記録や、引取りに至らなかった理由まで照合した調査ではありません。
それでも、行政が引き取った犬猫だけを見ていては捉えにくい相談が、民間に届いていることを考える材料になります。
その相談には、野良猫の保護、高齢の飼い主の入院や死亡、多頭飼育崩壊、経済的な事情、飼い主や家族からの直接相談などが含まれます。
依頼を受けても、民間団体がすべて引き取れるとも限りません。
施設、預かり先、人手、資金には限りがあるからです。
「行政が断った分を民間がすべて引き受けている」とまでは言えませんが、行政統計とは異なる入口が民間側にあることは分かります。
なぜ「見える景色」が違うのか
犬猫が保護や相談につながる流れを、三つに分けてみます。

ポイントは、行政が相談対応をしていても、引取りに至らなければ行政の引取り数には載らないことです。
1. 行政の引取りとして統計に載る
飼い主・住民
↓
自治体へ相談
↓
行政が引取り
↓
行政統計に計上
この犬猫は、引取り後の返還、譲渡、殺処分なども行政統計に反映されます。行政から民間団体へ譲渡された場合も、この経路です。
2. 民間団体が直接相談・保護する
飼い主・住民
↓
民間団体へ直接相談
↓
民間団体が保護、譲渡先探しなどに対応
行政が引き取っていないため、その犬猫は行政の引取り数には入りません。
3. 行政に相談するが、行政の引取りには至らない
飼い主・住民
↓
自治体へ相談
↓
飼養継続の助言、譲渡先探し、関係先の案内など
↓
飼い主が継続飼養、または民間団体等へ相談
この経路では、行政が何もしていないのではなく、相談対応をしていても「引取り」に至らなければ、引取数には現れません。
その後に民間団体へ相談が届けば、民間側には負担や保護ニーズとして見えます。
このように考えると、行政の引取数が減っていても、民間団体への相談や負担が同じ割合で減っているとは限らないことが分かります。
ただし、この三つの経路の全国的な割合は、現在の公表されている資料だけでは分かりません。
行政統計と民間調査を合わせても、同じ個体を入口から出口まで追跡したデータにはならないためです。
犬猫の状況を何の数字で見るべきか
殺処分数だけではわからない
殺処分数は、行政が扱った犬猫の「結果」を示す重要な数字です。
2004年度の39万4,799頭から、2024年度の6,830頭まで減ったことには、大きな意味があります。
しかし、そこに至る前の相談や、行政を経由しない民間保護までは分かりません。
殺処分数は分かりやすく、政策の成果として示しやすい数字でもあります。
そのため、「殺処分ゼロ」や「殺処分数の減少」が政策目標として掲げられることがあります。
しかし、この数字だけを成果指標にすると、行政の引取りに至らなかった犬猫や、民間団体が直接支えている犬猫の状況が見えにくくなるおそれがあります。
重要なのは、殺処分数を減らすことだけではなく、その犬猫が最終的に適切な飼養や譲渡につながったのかまで見ることではないでしょうか。
犬猫保護を見る6つの視点
状況をより広く見るには、殺処分数に加えて、次のような数字も必要です。
- 自治体・民間への相談件数と相談理由
- 行政・民間それぞれの新規保護頭数
- 飼養継続につながった件数
- 返還・譲渡数
- 保護から譲渡までの平均期間
- 受入可能頭数や預かり先の余力
こうした数字を合わせて見ることで、「保護を必要とする犬猫そのものが減っているのか」を、今より多面的に判断しやすくなります。
現在、国が毎年公表している全国統計では、行政の引取り、返還、譲渡、殺処分などは把握できます。
一方、相談件数や飼養継続につながった件数、民間団体の直接保護、保護期間、受入余力などは、全国統一の形では十分に見えません。
また、白書では、保護依頼が増えたと回答した団体が感じる主な要因として、高齢飼い主の入院・死亡や多頭飼育崩壊が挙げられています。
環境省の多頭飼育対策ガイドラインも、その背景に経済的困窮や社会的孤立がある場合を示しています。
保護が必要になる背景そのものが、犬猫だけの問題ではなく、人の暮らしや福祉とも結びついているのです。
こうした問題を減らすためには、保護が必要になってから支える仕組みだけでなく、飼い始める前に「将来も無理なく飼い続けられるか」を考えることも大切です。
費用、時間、住環境、家族構成、終生飼養、適正飼養など、犬を迎える前に確認しておきたいことは、こちらの記事で整理しています。
数字が増えたか減ったかだけでなく、「どの段階を数えているのか」を確かめ、相談、保護、返還・譲渡、受入余力まで合わせて見ることが大切です。
まとめ
行政統計と民間保護団体の調査は、どちらかが正しく、どちらかが間違っているというものではありません。
それぞれが違う範囲を見ているため、見える景色も違います。
行政の引取数や殺処分数が長期的に減っていることは、重要な成果です。
また、飼い主の終生飼養を促し、相当の理由がない安易な引取りを抑えることにも動物愛護上の意味があります。
一方で、その数字だけでは、行政の引取りに至らなかった相談、民間への直接依頼、長期保護、受入余力、人の福祉と結びついた問題までは分かりません。
犬猫をめぐる状況が本当に良くなっているかを見るには、行政、民間団体、飼い主を含めた「入口から出口まで」の流れを、複数の数字で捉える必要があります。
そのためには、相談件数や相談後の対応、飼養継続、民間団体による保護、返還・譲渡、保護期間、受入余力などについて、全国でできるだけ共通した形で把握し、見える化していくことも今後の課題ではないでしょうか。
「殺処分ゼロ」という分かりやすい数字だけでなく、その手前で何が起きているのかまで分かるようになれば、行政の取組も民間団体の負担も、より正確に評価できるはずです。
みなさんは、犬猫の保護政策の成果を測るとき、どのような数字を見るべきだと思いますか。
この記事で整理したポイントを確認したい方は、末尾のクイズで振り返ってみましょう。
参考情報
- 環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」(2026年9月10日確認)
- e-Gov法令検索「動物の愛護及び管理に関する法律」第7条、第35条(2026年9月10日確認)
- e-Gov法令検索「動物の愛護及び管理に関する法律施行規則」第21条の2、第21条の3(2026年9月10日確認)
- 環境省「犬及びねこの引取り並びに負傷動物等の収容に関する措置について」(2026年9月10日確認)
- 環境省「『人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン』の策定について」(2026年9月10日確認)
- 犬猫生活株式会社「全国 犬猫保護活動 実態白書2026」(調査期間:2026年6月9日~7月27日、回答120団体)
- 犬猫生活株式会社「『全国 犬猫保護活動 実態白書2026』を公開」(2026年9月8日)
注意書き
この記事は、2026年9月10日時点で確認できた法令・公開資料をもとにした一般向けの学習記事です。
個別の犬猫の引取り可否や対応は、事情や自治体の条例・規則、運用などによって異なります。
飼養の継続が難しくなった場合は、深刻になる前に、お住まいの自治体や動物愛護相談窓口、信頼できる関係機関へ相談してください。
ミニクイズ
第1問
環境省の犬猫引取り統計から、直接分かることはどれでしょうか。
- A. 全国で保護を必要としている犬猫の総数
- B. 全国の民間団体に届いた相談の総数
- C. 自治体が実際に引き取った犬猫の数
- D. 飼養継続が難しい全世帯の数
正解:C
解説:行政統計は、自治体が実際に引き取った犬猫と、その後の返還・譲渡・殺処分などを中心に集計しています。
第2問
自治体による犬猫の引取りについて、最も適切な説明はどれでしょうか。
- A. 相談された犬猫は、理由を問わず必ずその場で収容する
- B. 自治体は理由を問わず自由に断ることができる
- C. 引取りが原則だが、法令で定める場合は拒否できることがある
- D. 民間団体だけが犬猫を引き取る責任を負う
正解:C
解説:動物愛護管理法第35条は自治体による引取りを原則としながら、終生飼養の趣旨などに照らした例外を定めています。
第3問
犬猫保護政策の状況を考える際、殺処分数と合わせて見るとよいものはどれでしょうか。
- A. 相談件数や保護期間、受入余力など、入口から出口までの複数の指標
- B. SNSの投稿数だけ
- C. 特定の保護団体の保護頭数だけ
- D. ペット用品の販売額だけ
正解:A
解説:殺処分数は重要ですが、相談、飼養継続、保護、返還・譲渡、長期滞在などの全体像を単独では示しません。



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